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3.騎士
 
 
 
「甲冑の亡霊…ね。お前、もうちょっと斬新な発想とかねえの」
 
 そんな使い古されたネタ。と吐き捨てる男に、リカルドは呆れたように返した。
 
「そういう注文は化けて出る方にしてください。…実際、いたんだから仕方ないでしょう。とにかく、甲冑に取り憑いた亡霊が現れて、毎夜何かを探すように町を彷徨い歩いている。そんな話を聞いたんです」
 
 よくある噂話だろ。そう切り捨てる男。まあ、普通誰もがそう思うだろう。とリカルドも思っていた。
 
「ところが、その話を聞いた日の夜、人気の無い町外れで偶然、その甲冑の亡霊が人を襲おうとしているところに出くわしてしまって。…甲冑の亡霊は実在したんです。襲われていたのは男性でした。『許してくれ』と叫びながら、腰を抜かしたように座り込む男に、甲冑の亡霊が剣を振り上げていて…このままでは危ないと思い、とっさに足元にあった角材を投げつけてみたんですが」
 
「亡霊相手に力技!? いや効かないねぇだろ普通!」
 
「いえそれが、意外にも勢い良く吹っ飛びまして」
 
「…先入観って恐ろしいな…つうか甲冑って重いよな? それがぶっ飛ぶってお前、どんだけ全力で投擲しやがった」
 
「しかし、甲冑はすぐに起き上がり低い呻きを上げながら、今度は私に向かって来ました。…側面が凹んでいましたが」
 
「命知らずな…いや命無いけど。なんか甲冑の方がかわいそうになってきた」
 
 亡霊に同情する男を無視して、リカルドは続けた。
 
「…あの甲冑の亡霊は恐ろしい相手でした。何度倒しても起き上がり向かってきました。生身の人間と違い、腕が取れてもその腕だけでも襲い掛かって来る…仕方なく、パーツ毎にバラバラに解体して、その場にあったロープで縛って落ちていた麻袋に詰めて、警察にでも持って行こうとしたんですが…」
 
「お前が恐ろしいわ! 警察もそんな亡霊組立てキット渡されても困るだろうよ!?」
 
「…そのときの旅のつれ……みたいな人に、急に引き止められたんです」
 
「お前、一緒に旅してるヤツがいたの」
 
 どんなヤツ? と興味津々に聞いてくる男に、リカルドは少し寂しげに返した。
 
「まぁ…そのときは。その人は『変じゃないか?』と言ってその場を離れませんでした。私が、何が変なのかと聞くと、麻袋やロープがこんな町外れに落ちているのは不自然だと」
 
「ああ…確かに不自然だな。その前にいろいろと不自然だったんで、なんか麻痺して気づかなかったが」
 
「それと、男が亡霊に襲われているときに叫んでいた『許してくれ』という言葉も。その人はそう言って、襲われていた男を縛り上げました。男は恐怖で気を失っていたのに、どうしてそんなことをするんだと聞くと、それには答えずに『この辺に麻袋がまだあるはずだから探して来い』等と言うんです」
 
「おいおい、埋める気じゃねえよな…」
 
「私もそう聞きました。するとその人は『埋めるんじゃない。たぶん、埋まっているんだ』と…」
 
 男は、意味が分かったのか、息を飲んで、低く問うた。
 
「………人が、か?」
 
 リカルドは、小さく頷くと、目を伏せて答えた。
 
「麻袋は、ありました。ひとつは土の中に…。しかし、もうひとつは深く掘られた穴の傍に。袋の中には気を失った女性がいました…彼女は、まだ息がありました。
 もう亡霊騒ぎどころではないと、私たちは甲冑はそのままに、彼女を町の病院に運びました」
 
「彼女、助かったのか」
 
 はい。リカルドが頷き、男は安堵の息をついた。
 
「翌日、彼女に意識が戻ったと聞いて、私たちは様子を見にいきました。…彼女は、泣いていました。彼女と一緒に見つかった土の中の袋、その中にいたのは、彼女の恋人だったそうです」
 
 男は、無言で目を伏せた。
 
「彼女の恋人は数日前から行方不明になっていました。そこへ、その恋人の行方を知るという男が現れました。彼女はその男について彼を探しに行ったそうです。…その男が、恋人の命を奪った犯人とは知らずに。男は彼女の恋人を殺した場所へ彼女を連れていって、同じ場所で彼女を…そこへあの亡霊が現れたと…」
 
「あの甲冑の亡霊…その恋人だったのかもな」
 
「そうかもしれませんね。…そういえば、私の旅のつれも、そんなことを言っていました」
 
 そう言ってリカルドは、少し寂しそうに目をそらした。
 
「なあ、ところで」
 
「なんでしょう?」
 
「…お前、涼ませる気あんのか?」
 
「…素人の怪談に期待しないでくださいよ…」
 
 
 

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