ある悪魔の所業
「まず、その上に乗ったドクロはなんだ」
「輝く白さが神聖な感じを醸し出す、この商品のイチ押しポイントだな」
「…その、下にぶら下がっている、藁人形みてえな人型は、なんだ」
「可愛らしい人形のストラップ。ということでどうだろうか。
胸を貫く五寸釘が、チャーミングなお人形に、ほろ苦いアクセント」
「……後ろに生えてる奇怪なオブジェは…」
「天使の羽を模した飾りだ。カラーは今年流行のブラックで」
「で、それはいったい何だ」
「魔除けのアイテムだ」
2.遺跡の商人
誰だ。今日の吉方が南だとか言ったヤツは。
村を出て、草と木以外何もない、大自然溢れる小道を辿って歩くことしばし。
木々の間から、石造りの古びた遺跡が顔を出していた。
いかにも、魔物の一匹や二匹はいるぞ、といった雰囲気だ。
他に何のあてもない俺は、軽い気持ちで、その遺跡へと足を踏み入れた訳だ。
自分の軽率な行動を、いくら悔やんでも悔やみきれない。
壁に背をつけ、逃げ場を失った状態で、俺は己を呪っていた。
今、遺跡に入りいくらか進んだこの場所で、俺は袋小路へ追い詰められ、知人の剣士の悪徳商法の猛攻に晒されていた。
どういう状況だ。
何故、俺の敵はいつも身近にばかりいるのだろうか。
先ほどから、ヤツは全力で拒絶する俺に構わず、手に持った得体の知れない物体を猛アピール中だ。
「…なるほど。呪いのアイテムを、無理やり押し付けよう、ってことか」
そして、ヤツは禍々しい物体を俺に押し付け、こう言い張るのだ。
「魔除けだ、と言っているだろう。
そして、押し付ける訳ではない。売る気だ。」
「買わねえよ!!
難易度高すぎるだろう、なんでそれで商売できると思っちまったよ」
剣士は、ふと遠い目をして言った。
「…どんな品であっても口先三寸で売りつけてみせろ。そんな師匠の言葉を受けて、私は旅立った訳だが」
「何の旅で、何の師匠に師事してんだ。
お前の腰の剣は唯の飾り。という俺の認識は、改めなくていいんだな?
つうか、商売修行だとしても、何故こんな辺境選んだよ。人里ですらねえよ。
そこまでしてハードル上げたかったのかよ。
まあ、その師匠の教えだけは、間違ってねえと思うが」
「そこは否定しないのか」
「しかし、残念だったな。アンタがどれだけ力説しようとも、俺は絶対に買うこたねえよ」
「そうか」
「一文無しだからな」
「………そうか」
剣士はどこか残念そうに、呪いのアイテムを道具袋にしまい込んだ。
やれやれ、やっと諦めたか。
そして、何事もなかったかのよう、俺の隣を歩き出した。
「ちょっとまて。なんで、普通に、ついて来ようとしてんだ」
「魔物退治をするのだろう。破格の報奨金が出ると聞いた」
どうやら、コイツもあの依頼を聞きつけて、こんな辺境に足を運んだクチにようだ。
「…アンタも同じ目的ってことか」
俺が問うと、剣士はいいや、と首を横に振った。
「報奨金が手に入れば、買う気になるかも、と」
「そこまでして買い取らせたいのかよッ!?」
こうしてひとり、非協力的なお荷物が、強制的に探索に加わった。
しばらくして、俺は気づくのだ。
今更、呪いのアイテムのひとつやふたつ押し付けられようとも、それでこの『厄介な知人』という呪いのアイテムが去ってくれるのならば、そちらの方が幾分もマシであるということに。
残念ながら、それを可能とする『金』という名の万能薬が、俺の手元にあった試しはないのだが。