ある悪魔の所業
遺跡には、いっそ清清しい程に何も無かった。
まあ、何の情報も無しの適当な散策でアタリを引ける程、人生甘くないという事か。
問答無用で村から叩き出しやがった僧侶が、つくづく恨めしい。
徒労感だけを土産に、遺跡から外に出る。
遺跡の入り口には、いつの間にか姿を消していた剣士が、見知らぬ少女を連れていた。
「うちではそんな大きな責任負えません。
元いた家庭に返してきなさい」
「ママー、ちゃんと面倒見るからー」
「つうか、それは犯罪だ」
3.森の迷い子
「…何か誤解をしている様だが、これは誘拐ではない。護衛だ」
「何から守るってんだ。
両親の救いの手からか、もしくは警官か」
「…世間の荒波とか、そんな感じで立ちはだかる全ての障害から、だろうか。
限りなくバリアフリーを目指してみようと思っているが」
「見境無く邪魔な物排除するのは、バリアフリーとは言わん。ただの無差別破壊だ。
…仕方がねえ。ほら、村に帰るぞ」
そう、俺が少女に手を差し出すと、少女の表情が一変した。
それまでは、まるで人形のように、無言で剣士の手を握っていた少女が、急に表情を変え、怯えながら剣士の背後に隠れた。
「全力で嫌われたようだな」
見りゃあわかる。
…若干傷つきつつ少女から離れる。
「…という訳ではなく、村に帰りたくないらしい」
確認するように少女を見ると、剣士の後ろから恐々こちらを伺っていた顔が、ちいさく一度頷いたように見えた。
「それに、彼女には大任がある。果たすまでは帰れないな」
何か理由があるのか?問う俺に、剣士は誇らし気に言った。
「私との水遊びの約束だ」
うわあ、くだらねえ。
心底同情して少女を伺うと、彼女は至極真剣な表情で頷いていた。
そんな苦行、付き合ってやる必要、ねえから!
俺は、『仕方なく』ではなく本気で少女を魔の手から救いたいと思った。
このままだと毒されかねない。
もう一度、俺は少女を見たが、いったい何をか決意してしまっているらしい少女に、村に戻る気はないように見えた。
「…まあ、せいぜい仲良くやってくれ」
そう言って背を向けた俺に、剣士がまた声をかけてきた。
「村に戻るのか」
「ああ。つうか、アンタはどうする気だ。
この辺りに、他の村とかあったか?」
「今、キャンプがアツい」
「…お嬢さんも、キャンプをご所望か」
見ると、少女は再び、ちいさく頷いてみせた。
「そのようだ。まぜて欲しい?」
「何を好き好んで、アンタと仲良くキャンプしなきゃならねえんだ。
人生に汚点残す気なんざねえよ」
「確かに、一面黒の中に一点白い部分がある場合も、汚点と認識されるのかもしれないが…」
斬新だな。となにやら納得している剣士を、睨みつける。
どういう意味だ。
「………そうか。ならば、土産にこれを」
そう言って、剣士がそっと握らせた物は、どこかで見たような、禍々しさ溢るる珍妙な物体だった。
「って、忘れた頃に呪いのアイテム押し付けようとしてんじゃねえよッ!!」
力いっぱい死球狙いで放った返球を、剣士は事も無げに顔の前で受け止めると、どこか残念そうに少女に差し出した。
「…仕方が無い。では、この娘にこれを…」
「お、大人げねえッ! そこまでして手放したいか!?
どんな呪いか知らねえが、子供に過酷な運命背負わす程にか!?
ああ、ちくしょう、引き取ればいいんだろうッ!!!」
こうして結局、この不気味かつ奇怪な呪いのアイテムは、我が物顔で俺の手に収まったのだった。