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ある悪魔の所業


 
 
 宵闇に、悪魔の影。
 
 寝静まった夜半の村を、二人の悪魔が襲った。
 
 扉を蹴破り窓を叩き割り、悪魔は暴虐の限りを尽くし、哀れな村人を家の中から引きずり出した。
 
 それは、一方的な狩だった。
 
 月を背後に駆けながら、悪魔のひとりはふと思う。
 
 これじゃ、どっちが悪魔だか。
 
 
 
 
  8.桶と柄杓と二挺拳銃
 
 
 
 
 与えられた作戦は簡単だ。
 家に篭った魔物をすべておびき出し、聖水で攻撃しつつ目的の場所へと追い詰める。
 魔物たちが誘導に気づかぬよう、できるだけ派手に荒らして混乱させるといい。老兵はにやり、と人の悪い笑みを浮かべてそう言った。
 
 
 そんな訳で、暗闇に包まれた村の広場は、今や阿鼻叫喚。
 家の扉や窓は散々に破壊され、室内には壊れた家具が散乱し、悲鳴が闇に木霊する。
 
 これ、ホンモノの悪魔に襲われたときの方が、いくらかマシだったんじゃないか?
 
 と、なけなしの良心が流石に痛み出した頃、俺は押し入った部屋の片隅で石像を見た。それは、家族で身を寄せ合い、怯えた表情のまま石へと変えられた村人の姿だった。
 否、このままでは、この村人たちは皆、悪魔に魂を喰らわれてしまう。
 すべては、彼らを救い出すため。
 そんな、都合の良い免罪符を手に入れた俺は、決意も新たに、日頃の憂さ晴らしも兼ねて、清清しく破壊活動に勤しんだ。鍵のかかっていない扉をうっかり蹴り壊したのも…ひいては彼らのため、だ。決して両手がふさがっていて、面倒だったという訳ではない。
 
 
 少女の作った聖水は抜群の威力を発揮し、俺の射撃がいかに的外れであっても、水滴がわずかに掠めただけで、魔物は悲鳴を上げて逃げてくれた。つまり、俺はスプリンクラーのごとく、適当に水を撒き散らしておけば良いという作戦だ。なんか、ちょっと空しい。
 否、あの呪いの…改め『魔除けの』アイテム効果で、実際は聖水など関係無く、俺と出会った魔物はもれなく泣いて逃げた。
 …魔物が泣いて逃げるってのは、一体何者のご加護だというのか。そんな、明らかに知らない方が幸せに生きていけそうな疑問が、常に警笛を鳴らしていた。俺は半ばそんな自分を納得させるために、聖水の水鉄砲と戯れていた。魔物が逃げ出すのは聖水のご加護だ。そう自分に言い聞かせてはみるが、悲鳴を上げて逃げ出す魔物は相変わらず、降りかかる聖水よりも、明らかに俺を凝視している。お願いだから、もうちょっと包み隠してくれないだろうか。
 
 適当に水鉄砲を乱射しながら辺りを見回すと、視界の端に見飽きた剣士の姿があった。
 お菓子をくれたらイタズラするぞー。と何か間違ったことを口走りながら、民家の扉を破壊している。恩を仇で返す宣言か。どこの悪党だ、アンタ。
 魔物を追い回す俺とは逆に、ヤツは一見すると追われる身だ。家に乗り込み、桶の水をすくって魔物にかける。攻撃され怒り狂った魔物が、テメエ一発殴らせろ、と追い回している状況だ。今や10体近くの魔物に追われているにも関わらず、当の剣士は暢気に打ち水に勤しんでいる。近寄ってくる魔物にだけ、妙に的確に当たっている事が不思議だ。なるほど適役。コイツ程挑発に適したヤツもそうは居まい。追い回す魔物の気持ちが良く分かるというものだ。俺もアレは殴りたい。
 
 かくして、2人の悪魔により、すべての家は破壊の限りを尽くされ、魔物は残らず燻り出された。魔物の姿は今や、20を数える程となった。
 泣いて逃げる魔物を追い回す俺と、怒り狂った魔物に追い回される剣士は、互いの無事な姿を確認して「なんだつまらん」と落胆して、魔物の誘導にかかった。
 
 
 
 
 鬼ごっこは、どのくらい続いただろうか。
 戦線は徐々に、目的の場所へと向かいつつあった。
 
 そして、たどりついた先は村の東。そこは、山の麓の小さな盆地だった。
 俺と剣士と魔物の群れは、その場所でにらみ合いを続けていた。
 
「そろそろか」
 
 ふと、剣士が呟いた。
 声がした方を見ると、先ほどまで近くにいたはずの剣士は、何故だか少し離れた高台に上がっていた。
 
 その直後だ。山の上の辺りから、轟音が押し寄せてきた。
 
 水音だ。
 
 まさか、と思ったときには、激流がすべてを飲み込んでいた。
 
 

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