ちょっと特殊会話形式

花束

術「食える草を探す会。」
剣「来るとこまできた団体名だな。」

術「さあ早速入会の…」
剣「とりあえず、お断りだ。」
術「とりあえずで断るなよ。
  ほらここに承諾のサインを。」
剣「何故に地面。」
術「…紙買う金があったらこんなに飢えてる訳ないだろ…」
剣「…冗談と疑う余地も残さない絶望感漂う顔で言うな…」

術「大体、ここに隠されてる宝って食べ物じゃないんだろ?」
剣「発酵させる気でもない限りは、食品をこんなところに隠したりはしないだろうな。」
術「なら予定変更だ。
  このまま宝探しなんてしてたら、宝発見する前に俺が果てる。」
剣「しかし、腹を満たすにも資金がないのだろう。」
術「貸す気も奢る気も全く無い前提で話しやがる…
  まあ、そこで『食える草を探す会』な訳だ。」
剣「胸張って言っていい名前じゃないぞ。」

術「ここは幸い山の中だしな。
  サバイバル検定・3級所持者の実力を見せてやるよ。」
剣「際どい検定受けさせられてるな。」
術「略してS検。」
剣「いや略されても。
  そう言いながら自然に他者の敷地の壁をよじ登っているのも、見ていて悲しくなるぞ。」
術「どうせここで宝探しするんだろ?
  それに、手段を選ばないことと、生に貪欲なのはサバイバル検定の必須事項だっ」
剣「実はブラックリストか何かか、その検定。」

剣「で、無事敷地には入れたが…
  異様に広い庭いっぱいに花が植えてあったな。」
術「金持ちってなんで皆こうなんだ…っ
  こんだけ土地あるんなら、もっと腹にたまるもん育てろよなぁ」
剣「金持ってるからだろ…」

剣「しかし、見事なまでに栽培禁止の花ばかり育てているようだ…どれもこれも毒草とは。
  残念だったな『食える草を探す会』。」
術「本っ当に感心できない儲け方してるなぁここの家主…
  あ、向こうの小屋にも別の花壇があるな…何が生えてるんだ?」
剣「四葉のクローバー。」
術「う、うわー微妙っ
  …………………クローバーって食えた?」
剣「クローバーはマメ科の植物だ。
  毒は無いし食べられるだろう。主食で無いことは確かだが。」
術「主食とかそこまで贅沢は言わないが、もうすこし質量のあるものが…いやそれも贅沢だな。」
剣「どこまでも謙虚だな。」

剣「しかし、この広い部屋一面にびっしりと四葉のクローバーか。
  幸せの象徴が盛りだくさん。見てたら腹も膨れるかも知れないな。」
術「そんな気休めで俺の腹が満たされるかっ!
  …大体なんでこんなびっしり生えてんだ…?」
剣「最近流行っているからだろう。効率的に四葉が栽培できれば一儲けだ。
  人工的に栽培する方法でもあるのだろうな。」
術「幸せってんなら、ここ一面に芋とか生えてたほうが俺は幸せになれるよ…」

術「大体、アンタのせいでこんなことなってんのに、
  なんで俺だけ腹すかせなきゃならないんだっ」
剣「あらやだ責任転嫁。」
術「何が転嫁だ。
  アンタが昨日のバイト無茶苦茶にしなかったら、俺もちゃんと給料もらえてたんだっ」
剣「売り子のバイトなんて無理やりさせるからだ。
  やったことが無いと、最初に言っただろう。」
術「アンタがあそこまで向かないとは思わなかったんだよ…」
剣「初心者故の初歩的なミスだな。」
術「客に『しけた面してますねー』から声掛けるのがか…?」
剣「私は振り子のバイトはやったことはあっても、売り子のバイトは未だ未経験の新人だもの。」
術「いや待て。そんな縁がある方が貴重だろう。」
剣「あれは運命の出会いだった…
  数年前、私が『名前はミーちゃんです』と書かれたダンボール箱に居を構えていたとき…」
術「勝手に語りだすなっそして何やってんだアンタっ!?」



剣「散々探し回ったが、結局毒草と四葉畑以外無かったな。」
術「本当にこの屋敷の庭にあるのかよ…もういいから町に帰ろうぜ」
剣「そう聞いたのだがな。」
術「町の子供に聞いたとかだったか…よくそれ信じてこんな山奥まで来たなアンタも…
  で、結局宝ってどんなものなんだよ。」
剣「山奥の豪邸の庭に隠されている、緑色で十字型の宝だと聞いた。」
術「…………………………四葉じゃねえのそれ。」
剣「………」
術「…あー…子供に取っちゃ宝物だったんだろう。
  俺も子供のころ必死で探したことあったし。今流行ってるらしいからな…」

剣「ということは、全くの無駄足か…」
術「せっかくだから土産に持ち帰ってやるか?四葉のクローバー。」
剣「量産型人工四葉のクローバーをか。」
術「いや…なんか、好きじゃないなぁそれ。
  しゃーねえ、帰り道に探して帰るか。
  幸いにも町までずっっと山道だし?大自然を満喫しながら探しますかーっ」
剣「何故、そんな棘と敵意むき出しで私を見る。
  責任転嫁の次は八つ当たりか。まぁ怖い。」
術「全部アンタのせいだっ!」



術「しっかし探すと無いもんだなー四葉。」
剣「私が見るところには必ず一本は生えているが。」
術「むやみに幸せそうだな、アンタ…」
剣「花束でも作ってやろうか?」
術「食える草で頼む。」
剣「……善処しよう。」


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