「光あれ」

「その手は何です?」
「遠い国の僧は頭を刈るのが基本だそうだ。」
そう言って剣士は楽しそうに僧侶の頭に眼をやる。
手にはすでにスイッチの入ったバリカンが構えられている。
「ちょっと目を瞑ってくれれば良いんだ。終わるから。」
「始まっても終わっても困るんですが…。」
僧侶が眉間に皺を寄せながらどうやってこの場から逃げようかと思案していると
今の状況にピッタリの人物が馬券片手に新聞と睨めっこしながら歩いてくる。
表情からすると今回も良い結果はではないのだろう。

「ところで、今回は何のバイトなんですか?」
僧侶の視線を一緒に追いながら剣士が暢気に答える。
「人の毛で七三分けの頭を模した被り物を作るそうだ。刈って来るのもいいが刈ってもらう方が優遇されているな。」

二人の視線に気づいたのか男が足を止め、少し思案した後、
見なかった事にして二人を無視して歩き出す。が、案の定捉まってしまう。
見慣れてしまった袈裟男の営業スマイルと剣のかわりに何故かバリカンをもった偽名男。
「いいバイトがあるんです。」
「一回で飯10食はいけるだろうな。すごいだろう。」
二人は楽しそうに話しだすが、どんな内容かさえ聞く気は無い。
「今は急いでいる。これから玉を弾きに行かなきゃならない。」
新聞の占い欄に目が移る。ラッキーカラーの銀に喜び、金運が凶である事は見ていない事にした。

「大丈夫だ、ちょっと目を瞑ってくれれば良いんだ。終わるから。」
「何が始まって何が終わるんだ…?」
二人に捕らえられてしまったので、しばらくおとなしく様子を伺う。
洗いたての大きな布を首に巻かれ、既に用意されていた椅子に足をくくり付けると
満足した顔でバリカンを近づけてくる。
身の危険を感じて頭を新聞で隠す。そして二人を振り払おうともがく。



2対1じゃやはり敵わないのか…。
目の前には独特のモーター音とともにバリカンの刃が近づいてくる。
意を決して目を瞑る。

目を開けて頭を触るとまだ毛があった。引っ張ってもみたがやはり自分のモノだ。
こんな目に遭うと自分の毛がどんなに大切なのか思い知らされる。

「…どうして止まったんだ?」
「エネルギー切れでしょうね。さっきからつけっ放しでしたから。」
よっぽどショックだったのか、肩を落として二人でバリカンを見つめて止まったままだ。

今なら逃げ切れる!!
必死に椅子から足を抜こうと、もがき出す。
左足の踵を巧く使い、右足を一気に引き抜く。





「全く、何処にいったんだか。」
「せっかく用意した椅子を奪って行くとは失礼ですよ。」
椅子に滑車が付いていたおかげで自分でもビックリするほどの速さで逃げれたのは良いが
ブレーキはもちろん、ハンドルなんてものは無く、運良く木の上で止まったが降りる術が見つからない。
そんな木の下で見上げてくる2人は好き勝手言って降ろす気はないらしい。
ふと、頬に生暖かいものが伝う…。


触るとねっとりして、白い。
上を見ると鳥達が楽しそうにさえずりあっている。

ため息をつきながら必死に掴んでいた新聞で優しく体を包み、
暖かい日に照らされ、ゆっくりと目を閉じた。


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