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一人旅

勇者の搭

そう書かれた案内の立て札に、思わず哀れみの視線を送ってしまうような、
そんな名前の塔が立っていた。

それはよくある村おこしのようなもので、
ここもまた、近くにある何の特色も名物もない村のはずれに、
ぽつんと佇む巨大客寄せパンダであった。

そしてこの搭には、必ず一人で入らなければならないという制限があった。


そこへ一人の術師がやってきた。
門番は問いかけた。
お一人ですか?
術師は目をそらしつつ答えた。
お一人です。
門番は頷いた。
そうですか。ではお通りください、ご武運を。と。
術師は会釈し、搭の入り口へと進んで行った。
その術師はとても大きな道具袋をもっていた。
人がひとり入れそうな大きな袋だった。
そしてその術師を先導するように大きな道具袋が進んで行った。

術師と道具袋は入り口の門をくぐる前に叩き出された。


そこへ一人の剣士がやってきた。
門番は問いかけた。
お一人ですか?
剣士は神妙な顔つきで頷いた。
残念ながら、独り身です。
門番は頷いた。
そうですか。ではお通りください、ご武運を。と。
剣士はあなたもお幸せにとよく分からない挨拶をして、搭の入り口へと進んで行った。
その剣士はとても大きかった。
成人男性の平均身長の1.5倍を越えそうな長身だった。
その全身を覆うようなゆったりとしたローブの腰にあたるであろう部分が、
もぞもぞ動いていたりもしていた。
何やらか小声で言い争う声なんかも、何故か上半身と下半身から交互に聞こえてきた。
あと数歩で門をくぐるというあたりで、
下半身が反乱を起こしたのか、上半身を鮮やかに投げ飛ばした。

一本!と叫ぶ下半身と倒れてぐったりしてる上半身は、
それぞれ搭の外に投げ捨てられた。


そこへ一人の僧侶がやってきた。
門番は問いかけた。
お一人ですか?
僧侶は微笑みながら答えた。
一人です。
その僧侶は右手に足を握っていた。
門番は問いかけた。
貴方が右手に持っているものは何ですか?
僧侶は右手に持つ足のその先を見て、
微笑みを崩さずに答えた。
武器です。
その僧侶は左手には手を握っていた。
門番は問いかけた。
貴方が左手に持っているものは何ですか?
僧侶は左手に持つ手のその先を見て、
困ったような笑みを浮かべ答えた。
盾です。
門番は問いかけた。
お一人ですか?
僧侶は答えた。
一人です。
門番は頷いた。
そうですか。ではお通りください、ご武運を。と。
僧侶はお勤めご苦労さまです、と頭を下げ、搭の入り口へと進んで行った。
その僧侶の右手には足をつかまれた術師が、
左手には手をつかまれた剣士が、
それぞれ引きずられていたが、
僧侶はそのまま門をくぐっていった。

門番は僧侶を引き止めることは無かった。
引きずられていったあれは、
間違えなく”武器”と”盾”として役目を果たすことになると思ったからだ。


背後の搭を守りながら、
中から聞こえる”武器”と”盾”の悲鳴と罵声を聞きつつ、
退屈な仕事に飽き飽きとしていた門番は、
たまの娯楽に小さく笑みを浮かべたようだった。


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