術師視点

いくさば

俺には理解できない光景だった。


町は二つに分けられていた。

狩る者と、狩られる者と。

逃げ惑う人々。
そのうちの一人が足を縺れさせ通りに倒れた。
狩るもの達が一斉に押し寄せる。
ある者は手に持った凶器を彼に投げつけ、ある者はそれを振り下ろす。
立ち上がりかけていた獲物は再び地面に倒れ伏す。
神の名を叫びながら。
それはそれは、幸せそうに。

昨日俺がこの町に来たときは静かだった町が、
今は罵声とも叫びとも聞き取れぬ声と、神の名と祈りの言葉で溢れていた。


本当に理解できなかった。


何故、鯖なんだ。



どうせ地方の行事なんだろうが、不気味なことこの上ない。
こんな方法で祭られる神様も正直異論はないのだろうか。


狩られる者と定められた俺にはただ逃げるしかできなかった。
鯖のフルスウィング役も正直やりたくは無かったが。
でも、鯖って結構痛いし。

先ほどから、俺だけを狙ってひたすら真顔で鯖を振りかざしてくる知人の剣士と僧侶の事も理解に苦しんでいるところだ。
今もヤツらは俺を探して鯖を片手に彷徨い歩いていることだろう。
アンタら、そんなに暇なのか。



叫びと祈りと神の名と、
鯖と鯖と鯖に満ち溢れた町の大通りを、俺は祭りが終わる夕刻まで逃げ続けた。
『隣町? ああ、鯖が名物かなぁ。』
そう、あまりにもインパクトの強い事実を極限まで柔らかく伝えてくれた隣町の酒場の主人を八つ当たり気味に恨みながら。





//思いついたときは茄子でした。
//タイトルを『戦場』から『いくさば』とひらがなに直した瞬間こう……鯖が…げふ…ヤッチャッター


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