常識力

剣「あの奥の物陰で、熊の剥製を被った見慣れぬ方が、
  膝をかかえ、時折、鳴咽を漏らしていた。
  もの珍しさに、つい声を掛けてみたが、
  どうやらこちらの言葉が通じないようだったな」

術「いや、そっとしといてやれよ…」

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術「で、こんなとこに呼び出して、なに企んでやがる」

僧「嫌ですねぇ。そんな身構えないでくださいよ。
  たまには、もっと互いの事を知り、
  親睦を深めようと思っただけですよー」

術「寒気のする字面だな。
  アンタとの親睦は、漏れなく交友費つう名目で、
  料金取られそうだから遠慮させてくれ。
  で、本題はなんだ」

僧「貴方の常識力を試そうと」

術「成る程。つまりは暇だから遊べと」

僧「では、さっそく軽い問題からいきますねー」

術「ことごとく無視する気なんだな、俺の発言は…」


僧「先日、各地で人形が飾られていたのを見ましたよね。
  この辺りで毎年行われている行事なのですが、ご存知ですか?」

術「俺の地元じゃやってなかったから、あまり詳しくないが…
  『ひな祭り』とか言ってたな。
  女の子の祭りで、人形を飾るんだろ」


僧「『桃の節句』とも言います。
  まぁ、だいたい正解ですね。
  しかし、雛人形はよくご存知でないようですね」

術「正直、『おだいりさま』と『おひなさま』しか分からねぇな」
  
僧「正しくは『お内裏様』と、『お雛様』。
  そして、三人官女、四天王、五人囃子、
  六歌仙、七福神などを飾った七段飾りなどがメジャーですね」

術「人多っ!!
  …なんか、やたらと混沌とした七段飾りの片鱗を
  垣間見た気がするんだがな…
  大体、その置き方で七段だと、一段だけ空いてるってことか?」

僧「おや、忘れておりました。
  最上段には、右大臣、左大臣がいましたね」

術「お内裏様とお雛様二段目か!?
  確実に大臣に実権握られてる感じの権力体制だな…」


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僧「では次です。
  この問題用紙の内容に答えてくださいね。
  常識問題ですよー」

術「………なんだ。
  この紙に付着した、群生したワラビみたいな奇怪な文様は」

僧「何って……ですから問題文ですよ。
  北方騎馬民族の公用語『テフト』で書かれた」

術「………ここから北方の国っつうと、
  他国民を襲うとかなんとか言われて、
  他国と交流のない秘境だったんじゃねえか。
  てかまず、言葉通じねぇのが問題だったとか聞いたんだが」

僧「そんなこと言って、
  さり気なく常識ありますアピールですか?いやらしい」

術「常識問題を未解読言語でしたためるヤツと、
  どちらがいやらしいだろうなっ
  ……つか、なんでそれで文章書けるんだ、アンタ」

僧「まさか。さすがに私も知りませんよ。
  ちょっと『偶然』お会いした北方民族の方に、
  手伝っていただけませんかー?って『お願い』しただけです」

術「だから、計画的犯行による脅迫は『偶然』『お願い』とは…
  ………?
  まさかさっきの人っ!!」

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