支離滅裂な回復呪文

 新しい回復呪文を手に入れたので試しにそこに腰掛けてください。とその人が言い出したのはとあるうららかな日差しの午後だった。
 どういった事情があれば聖職者が呪文を「手に入れる」状況になるのだろうとは思いつつも、まあ新しい術書か何かということに当たるのだろうと自分の身に都合のいいように解釈をすると本家術使いの方は断固として反対した。
 どこまでも断固として、である。聞く耳を持つとおそらくそれ以上の行為も強いられることは術を使う方の人もよく理解していた。
 まあ、いいから。回復呪文と名の付くものを、聖職者が使う以上呪いの術類ではないのですから後遺症が出ることはありませんよ。と言いくるめようとする言葉がいっそ胡散臭い。
 回復呪文と名の付かないものならどうなるのだろう。などと不穏を考えることは許されない。口に出してはもうアウトだが、おそらく考えただけでも何やら呪縛がかかりそうな気がしてならないからだと術を使う方の人は自分に言い聞かせる。
 大丈夫大丈夫痛くないですよ。と笑顔で語る聖職者に、当然だろ!と声を荒げてしまう術使いの方の人。
 確か先日、ギルドの依頼をこなした時に腕を怪我していましたよね。その傷を治して差し上げましょう。甘い言葉で囁いてくるが、どうして今再会したばかりの人間にそんな当たり前のように言われる必要があるのだろう。余計に怪しいと術使いの方の人はまた一歩距離を離した。
 ここから先はしばらくこの一進一退が続くので割愛する。
 ついでに記入するのも面倒になってきたので会話だけ残しておくことにする。

「よいしょっと」
「っ!何すんだ!一応武器にもなるそんなもんで殴られたら塞がった傷も出血大サービスで再びご開帳だろうが!」
「ご存知ありませんか、傷が大きいほど自然治癒力が引き出されてですね」
「傷に比例してるんだろそれは!傷が広がらなきゃ治癒力も現在進行形で十分なんだよ!」
「この術にはある一定以上の治癒力が必要なんですよ、例えば半死半生くらいの治癒力に比例して使用できるレベルですから、ああ、使えば傷なんて一発で治りますよ」
「誰がそんな生物実験の為に心の傷を作らされるもんか・・このままだと半死半生どころか九死に一生できるかわからない状況作られそうじゃねえか」
「そうですね、そこまで行ったらいっそ一編死んで生き返る方が早そうですね」
「それは蘇生の話か?ターンアンデットの話か?」
「多少カクカクはしますが、大丈夫。生命活動はともかく実生活に困りはしませんから」 「問題だらけじゃねえか!そこに俺の意志はあるのか??」

 最終的に掛け合いを静観していた剣を使う人間が、新しく覚えた回復呪文だといいながら精神力0使用の「バンドエイド」という術を使ってきたので呆れて物も言えなくなっておいた。
 回復と名が付けば何でも呪文になると思うな。と言おうとしたが、いっそ無茶な呪文を使われるくらいならこのくらいの方が身の安全を確保できるのだと気付きとりあえずもう一度ため息をついておくことにした。



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