勝つために手段は選ばない

 人探し・・ですか?はあ、はあ、なるほどいらっしゃいましたよ。その方が何かなさったんでしょうか?いえ、これは詮索でしたね。失礼いたしました。
 ええ、あの方達がカジノに訪れたのはそうですね、もう数月前になるかもしれません。まだ少し肌寒い頃でしたから。
 一人はスロット、一人はルーレットでしたか・・片方の軽装の方は「負けるわけない、今日はついてますよって通りすがりの占い師に半笑いで言われたんだ」と言っていました。
 もう片方の、剣士の方ですかね腰に剣をさしていたようですから。その方はお連れの軽装の方の言葉を聞きながら「確かにそれは意地でも負けられないな」なんて仰ってましたか・・。
 よく覚えているな、ですって?ええそれはもう。
 何せお二方、すっかり減ってしまったコインを持って私の前でその会話をしていらしたんですから。おかしな会話ですっかり覚えてしまいましたよ。
 ええ、その日私はディーラーとしてブラックジャックのテーブルについていました。

 さて、どこまで話しましたか、ああゲームですね。テーブルには4人のお客様がお座りになられていまして、お二方はその中央の席でした。先程までの負けは運だったのか腕はそこそこのようで、勝ちつ負けつつされてました。
 しかしそれも途中までで、お二人が大きく出たここ一番の勝負で見事コインは残り一度分にまで減ってしまいました。
 「最後の勝負をいたしますか?」こう尋ねましたよ。
 お二人の答えは「もちろん」それまで喧々囂々だったのが嘘のようにぴたりと声をそろえて仰いました。ですから私はカードをお配りしたのです。

 ところであなたはブラックジャックのルールをご存知ですか?あまり?
 要するにカードを引いてより21に近ければ勝ちというゲームです。絵札は10、Aは1か11を選べます。最初に配られるカードは1枚が表、1枚が裏を向けられて片方内緒になっているのでそれを見ながら駆け引きをするというわけです。簡単でしょう?
 カードを配るディーラーより21に近ければ勝ち、スペードのAとJならブラックジャック!これが一番強いんです。
 お店によってはジョーカーを入れて好きな数にできるというところもありますね。
 まあ、といっても大抵は1枚だけですので奇跡が起きてジャストタイミング、とはそうそういかないものです。

 そうして奇跡が起きたわけですよ。
 ええ、居並ぶジョーカーは3枚。

 お客様がカードをオープンにされまして、伏せ札からお三方ジョーカーが。ええあの時はまったく驚きました。
 それ以上に驚いたのはそのお二方だったのでしょうね。勢いよく立ち上がって口論を始めました。
 「そこまでして勝ちたいか!このペテン師」「詐欺まがいに言われる言葉ではないだろう」「今日という今日は勘弁ならない、どうしてくれるこの勝ちを」「いいだろう表へ出ろ」
 こうしてお二方は物騒な言葉に習って気ぜわしく外へ出て行かれました。
 いえ、何とも鮮やかな手口で、他のお客様も、またお恥ずかしいことに店員一同もみな呆気に取られまして・・ええ、まさか店員に営業妨害でつまみ出される前に逃げ出したのだとは最初気付きもしませんでした。
 とばっちりを食ったのは残りのお客様で、いえ、申し訳ないことをしたと思いました。
 お一人折角ジョーカーを出したお客様は「これでは勝敗が決まりませんね」と重そうな賭けチップを収めると、肩をすくめては笑いながら去っていきましたよ。

 見たところ神職の方のようでしたので不躾ながら尋ねてしまったものです。

 「神職にある方がこちらにいらしてよろしいので?」
 「賭け事に溺れることが罪なのです、嗜むだけであればパズルのようなものですから。それに私の神は寛大ですので、どうせ逐一見てやしませんよ」

 だそうで、ちなみに当店、ジョーカーは使用しておりませんがね。



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