契約

大きな国の大きなお城。
その玉座に座る王様はたいそう機嫌が悪かった。
どうやら何か大人の事情というやつらしい。
王様は国中から強い人を集め、
こう言った。

自分の部下の一人に反逆者がいる。
それが今日城から脱走した、
なんとしても捕まえろ。
消してもかまわない、と。

玉座の前に並んでいた、たくさんの強い人たちは、
すぐに任務遂行のために出発していった。


しばらくたった頃には、ほとんどの者がその場を去り、
残っていたのは三人だけであった。
それは今回の任務において、オマケの担当の人員たちであった。

ひとりは、術師だった。
昨日、白昼堂々王様の自室を荒らしているところを捕縛された者だ。
今朝まで牢に放り込まれていたのだが、
急な人手不足のため、ここに連れてこられた。
任務を成功させることが出来れば、その幾らかはくれてやるから、と。

ひとりは、剣士だった。
昨日、お城の宝物庫を荒らしているところを捕縛された者だ。
今朝まで牢に放り込まれていたのだが、
腕を見込まれ、ここに連れてこられた。
任務を成功させることが出来れば、罪を問わないことにする、と。

ひとりは、僧侶だった。
数刻前、ふらりと現れたこの者は、
いろいろな話に織り交ぜ、
実に遠まわしに、金貸して、と言ってきたのだった。
金を渡し、その返却の代わりとして、
今回の任務への参加を命じた。
任務を成功させることが出来れば、その金はお前のものだ、と。


面倒そうに柱に寄りかかっていた術師と、
周りを気にしていないのか、床に胡坐をかき武器の手入れをしていた剣士と、
釈杖をつき、のほほんとその場に立ったままの僧侶は、
互いに残った者たちの姿を確認し、
小さく舌打ちしたのだった。

しかし、しばしのにらみ合いの後、
三人は誰からともなく歩み寄った。
全ては己の目的のため。
まさにそう顔に書いてあるような素敵な笑顔を浮かべて。
みんな仲良く、仲間大事に、三人協力しようじゃないか。
己の利益のためだけの同盟関係の誕生だ。
契約を達成するための契約がここに結ばれた。


それから数日後。

大きな国の大きなお城。
その玉座に座る王様はたいそう機嫌が悪かった。
帰ってきた強い人たちは、誰一人反逆者を発見することすら出来なかった。
そして、帰ってきたオマケ担当たちは、
反逆者を見つけはしたものの、逃がしてしまったと言うのだ。


王様は顔を不機嫌の眉間にさらに皺をよせ、三人を睨みつけ言った。
悪いのは誰だ。
三人は互いの顔をちらりと見て、
息ぴったりにこう言った。
自分以外のやつだ、と。
同盟関係、見事決裂である。

さらに機嫌を悪くした王様は、顔を真っ赤にして怒鳴った。
お前たちは任務を失敗した。
契約は、なかったことにする、と。

そうですか、そりゃ残念。
そんなことを言いつつ、ちっとも残念そうではない顔で三人は王様に背を向け帰り出した。
慌てて制止する声が兵達から上がる、
しかし、
剣士は振り返ると言った。
私はもう自由です、報酬はいただきました、と。
僧侶は振り返りもせずに言った。
お借りしていたお金はもう使ってしまいました、なのでお返しできません。
報酬としてありがたくいただきました、と。
術師は歩みを止めることすらせず言った。
報酬?いやもう貰わなくても勝手に持って来ちゃいましたよ。
背後の玉座から何かが切れる音が聞こえた気がしたが、
三人はそのまま再び出口へ進んだ。

契約とかで縛られるのなんて面倒でいやなんですよねー
誰ともなくそういい残して。

背後から上がる王様の怒声、
命令だ、この三人を捕らえろ、むしろ消してくれ。
そのとたん襲い掛かってくる強い人たちと大勢の兵士達。
その攻撃を避けつつ出口へと走りながら、
三人は己の身の安全のために、協力しようと契約を結んだのだった。


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