なんていい風の吹く場所なんだろう。
この街に偶然辿りついた青年はこの町でおそらく一番景色のいい場所に立ちそう考えた。
遮るものは何もなくただひたすらに空に向かって吹いて行く風。
その風を背中で感じながら青年はゆっくりと景色を見渡す。
空気は少し砂っぽかったが、静かな、とても静かな空間を感じながら青年は「こんな場所もあったのか」と呟いた。
今はまだ日の入りだがもう少しもすればすっかりと日も暮れるだろう。
晴れていればその時ここから見上げる空はまた格別に綺麗だろうかとも考えた。
そうしているうちに、誰かに声をかけられた。青年は声の場所を振り返る。
振り返った先、青年の立つ位置から十数メートル離れた場所に居たのは青年にとって不肖の連れ合いだった。
彼はこの街について二手に分かれた時の姿と変わりなく腰には職業を感じさせる剣、物腰も「一応」隙なくしている。
少し違ったのはその手に先程まではなかった麻袋を持っていたことだけだろう。
しかし青年はそれを当然の者として剣士、彼に届くように声を張り上げた。
「そっちの収穫はどうだったーーー」
「財産辺りはみんな持って行ったようだ、あったのは干し肉くらいだった」
剣士が淡々と淀みなく言い返す。
青年と違い別段声を張り上げている様子もないがその声はすんなりと青年の下へ届いた。
青年も別段驚かず手に持っていた古めかしい一冊の本を剣士に見えるように持ち上げる。
「こっちもだ、あったといえばこの役に立たない本くらいだなー」
その本はこの街の歴史に大きく関わり、始まり、繁栄、人々が幸せに暮らす日常をながきに渡って記してきたものであったが、
青年にとってその本は、どこにでもありふれた子供の為の絵本より価値のないものであった。
「ただ寝場所は確保した、本によるとこの先に遺跡があるらしい
お宝の類はないらしいけど雨風凌ぐには充分だろ」
話しながら近づいていた剣士もそれを聞いて是非もなく承諾する。
同伴者の頷く姿を確認すると青年は勢いをつけて着地した。
青年は今まで立っていた階段に視線をやる。自分が立って辺りを見渡していたのが中二階程の高さ。
そしてそこから先はすっぱりと建物の存在自体が消えていた。
ここがこの街で一番見晴らしのよい場所。
街の中心地にあったのであろう教会は信仰が厚かったのか金に物を言わせていたのか流石に他よりはよいつくりをしていたらしい。
それでもこの街に訪れた何かには耐え切れず残ったのはこの二階にも満たない高さだけ。
青年は本を元あった場所に戻そうか悩んで、いや悩まずに、その場に置いて行くことに決めた。
どこに置いても関係ないだろう。
どれだけこの街の成り立ち、繁栄の歴史なんてもがあったとして、どこをめくっても現状を引き起こした理由のない本などに意味はないのだ。
こうして、術師と剣士旅人二人は崩れ去った瓦礫の町を後にした。