罪の記録

彼等は走っていた。無心、いや一心に、ひたすらに、ひたむきに。
とにかく走っていた。



「どうしてこんな大事な時にっ」
厚着とも薄着とも取れる服装の、おそらくは術師であろう方が声を荒げた。

「まあ・・・お互い様・・」
その声に少しだけは自分も悪かったかもしれないなという気持ちを滲ませたもう一人が鬱蒼と口を開く。身につけているものからおそらくこちらは剣士であろうことが窺い知れた。


会話とも呼べない罵倒を交わしながら二人はただ走った。
術師、剣士ともすっきりと整えられた旅支度に無駄なものは一切なく、ただ二人ともその手に持っているごつごつと角が張っていたり、へこんでいたりする不定形の荷袋だけが異質な存在を誇示していた。
荒地を走り、林を抜け行くにつれて、まだ差したばかりだった太陽はいつの間にか角度を変え南を目指し輝き始めていく。


走る。ただ走る。走る。走る。
息を荒げ足はもつれ伝った汗は背や首元に不快な染みを作っていたが、それでも彼等は止まるわけにはいかなかった。
握り締めた存在がそれを許してはくれなかった。




「っ・・・ばはぁっ・・!!!」

ようやく辿りついた時二人は、これまでの走りと同様先を争うように手の中の荷をかなぐり捨てそして倒れ伏した。

目的の場所に辿りついた。

とにかく二人の中は達成感で一杯だった。できることなら今すぐ冷たい水で祝杯を上げてしまいたいくらいだ。倒れたまま覗くお互いの瞳にはお互いを讃える光だけが満ちていた。

しかし世界は急激に終わりを迎える。
それもまた旅人としてのどこか常識染みたものだった。

様子がおかしいと先に気付いたのは術師だった。
その気配を察知し先に立ち上がったのは剣士だった。
投げ捨てた荷を拾い上げ目指したその場所に、最後の歩みを進める。
しかしそこには栄光も、名誉も、希望も、感動のフィナーレも・・

あるべきはずの物すらなかった。


先にそれを見つけたのは今度は剣士。
一点を見つめて動かなくなってしまった同胞、術師の瞳は嫌が応にもそれを追ってしまう。
二人の見つめる先にあったのはただ数行の言葉すらなしていない。文字だった。



ゴミの収集日



その後に続く曜日は確実に今日でないことは確かだった。


彼等は走っていた。
無心、いや一心に、ひたすらに、ひたむきに。
ようするに走っていた。
・・・数刻前までは。


彼等は今ゆっくりとした足取りで歩いている。やはりすっきりとした旅支度に無駄なものは一切なく。さらに今では手の中それすらすっきりしていた。
ああもうついでだ今日はここで宿にしてまずは汗を流そう。術師はそう思った。
ああもうついでだ今日はここで宿にしてまずは食事にしよう。剣士はそう決めた。


先程の看板の下には主に、文字通り「捨て置かれた」今はただのゴミ。

通りすがりの管理者が眉をしかめて罵ろうと、罪の記録を刻もうとも、もうそれは知った事ではなかった。


「不法投棄」



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