術師視点

魔法使い

俺なりに、術師として必要なものとは何か考えてみた。


まずは広い知識。

突然だが、術を使う際、唱える呪文の候補としては2つある

異国語だか古代語だかのようなもの。
または地方伝承や神々の伝説などを織り交ぜたもの。

俺は後者のものを好む。
そうなると、やはり内容の丸暗記よりも実際知識を持っていた方がよい。
真実味も増すというものだ。


そして、広く全体を見渡せることも重要だ。
瞬時に状況を把握し、戦場全体を見ることが出来ること。

間合いを取って、相手の出方を見る間に、
周りを見渡し武器になるものを探すのだ。


一つの考えに囚われすぎないことも大切だ。
常にいろいろな方向から物事を見ること。

呪文を相手に聞こえるように唱える。
身振りもつけると効果的だ。

強力な術だけが全てではない。
呪文を唱え終わったら術を撃って来る、そう相手に思わせる事こそが最も重要なのだ。



例えば、俺は先日、ちょっとした決闘の際これを実践した。


まずは相手と間合いを取り、戦場の把握だ。
都合のよいことに、俺の足元には一抱え程の鉄製の球体が転がっていた。

それを確認した後に、呪文の詠唱に入る。
俺は迂闊にも、まだ来て日の浅いこの地方の伝承などを調べていなかったので、
自分の故郷でたまに拝まれている、のり塩ふりかけの神の説明などを呪文らしく唱えてみた。

そして、ある程度唱えたところで、くねくねと動かしていた手を前に突き出す。
武器を構え、こちらに突進してきた相手は術が来ると思い一瞬怯んだ。
俺はその隙を突き、足元の鉄球を相手に力いっぱい投げつけた。
相手は予想外の出来事に大いに慌て、情けない悲鳴を上げつつも、なんとか鉄球をかわした。
鉄球は相手少し前方の地面に落下した。

しかし、それも想定の範囲内、である。
俺は鉄球からこちらに伸びた紐をぐい、と引いた。
すると相手のすぐ近に落ちていたその鉄球が真ん中から開き、
中から痺れ薬が流れ出し、見事相手を戦闘不能とした。

もちろん、こちらが風上になるのも事前に調査済みだった。



どんなマジックにでも種や仕掛けがある。
その事と同じだ。
術師といえど、全て無から有を生む訳ではない。
時には事前の仕込みも必要なのだ。


ちなみに何故事前に仕込みが出来たかというと、
その場で殴りかかろうとしてきた相手に決闘を持ちかけ、
決闘場所をそれとなくここになるように誘導したからだ。

やはり、術師に一番必要なのは頭の回転だろう。




と、道具袋の奥から発見された、俺が学生時代に書いたものらしい論文には書いてあった。
まだ学校に入って間もない頃の物のようだったが、あまりにでたらめな内容に苦笑した。
この頃の俺はまだ分かっていなかった。


俺は先ほど酒場で会い、
金5000で雇った剣士と僧侶を見ながら思った。


術師に一番必要なものとは。
強力な『盾』を手に入れるための、
経済力だと。


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