追う者と、追われる者と2


「犯人に告ぐ!おとなしく出てきなさい!
 君のお母さんも…いや残念ながら実家を割り出すことができなかったんだが…
 お母さんというお母さんが泣いているぞ!」

「それは大惨事だ」

「とんだ女性の敵だなアンタ」


タイトル:追う者と、追われる者と2


それは、ある天気のよいお昼時。

ある街の宿屋の前の大通り。

4人の仕事熱心なおまわりさんが、
犯人の立て篭もる宿の一室に向かって大音声を響かせていた。

買い物に行き交う人々は、
迷惑そうに、はたまた興味深そうに、
少し距離を置いてそれを眺めていた。


一方、宿の二階の一室では、
二人の旅人が、一つしかない窓の左右で身を隠しながら通りを見下ろしていた。

「アンタ今度は何やった」

旅人の一人――術師風の旅人が、もう一方に恨みがましそうな視線を向けて言った。

大した事ではないのだが。と睨まれた方の旅人――剣士は前置いてから言った。

「私が放った火種が、彼等の心に火をつけてしまったみたい」

「精神論の問題じゃねえよな。
 物理的に火いついてるだろそれ。
 普通に犯罪じゃねえのか」

「仕方が無かった。止められぬ衝動だったんだ。
 こう、いかにも焼き芋始めます。
 といった風情の落ち葉が、彼らの詰め所の前に準備されていてな…」

「…一気にどうでもよくなった」

「食べ物の恨みは恐ろしい。と身をもって学ばせて貰えた訳だが」

「集団で職務放棄して、私怨に走る動機になる程にか」

軽犯罪と呼ぶもおこがましい罪状にうんざりと術師は呟いた。

依然、表の通りからは説得とも罵声とも付かぬ言葉が聞こえてきていた。
もういい、勝手にやってくれ。

「しかし、いい機会を貰えた」

「この状況が、いい機会、ね。
 見上げた自虐癖だが、頼むから俺を巻き込んでくれるな」

「一度、やってみたかったんだ」

「周辺住民を敵に回してみる暴挙をか」

剣士は、部屋の隅に置いていた某・聖夜にプレゼントを配る老紳士のような大きな白い袋を持ち出し、袋の口を広げて見せた。
中には、一週間を楽にすごせるだろう大量の食料。

「篭城戦」

「……せめて強固な砦でも準備してからほざきやがれ」

セキュリティや耐久性なんてあったものではない、
申し訳程度に鍵一つ付いた、木造の宿の一室で。

この城、もって半日程度か。と。
術師は、無駄に疲れた気分でため息ながらに見積もりながら。

おまわりさんが無駄な時間の浪費に気づいて諦めるのが早いか、
それとも、やはり無駄な説得を諦めて、宿に乗り込みこの薄い扉をぶち破るのが早いか、
はたまた、おまわりさんの職務怠慢を周囲が咎めるのが早いか。

そんな、この茶番の結末と。

今のうちに退路を探してみるか、
それとも、自分は無関係で、人質として巻き込まれたんだと訴えてみるか、
はたまた、今の内にこの馬鹿おまわりさんに突き出すか。

どれが一番自分にリスクが少ないだろうかを、
馬鹿ばかしさにまともに動いてはくれない頭で考えて。

何はともあれ。

全部この馬鹿黙らせてからだな。

と一応の結論に、術師は心中で頷いたのだった。


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