「今まで隠していたのだが、ついに知ってしまったのか…私が、実は最強の勇者の家系で、魔法大国の王子で、大地主で、最近大ブームのドーナツ屋の店長だと言うことを」
「出来れば秘密にしておきたかったのですけどね…私が、実は世界一の総合企業の筆頭株主で、昨年の印税王で、大陸最大手の銀行の社長で、財界の第六天魔王と呼ばれていると言うことは」
願いが叶う場所。そんな伝承の地を見つけ出し、足を踏み入れた瞬間、旅の連れの剣士と僧侶は、上記の如く宣った。
勇者の子孫は、どんな迷走の歴史を辿ったのだろうか。とか、どれだけ稼げば満足する気だ。とか。
たくさんの言いたい言葉を胸に仕舞い、術師は心底うんざりと呟いた。
「全く、とんだ悪夢だ」
朝、術師が目を覚ますと、見慣れた安宿の天井があった。
願いが叶う場所。結局、おとぎ話の真偽は誰も知らぬまま、寝覚めの悪い珍妙な夢だけが、朝の光に溶け消えていった。