光さす庭

やられた!!
まさかあんな所にあいつがいるとは思わなかった…
必死に影の行く先を探し、走りながら今はただ…
後悔してる。


青々とした芝生に小さな花々が散っている美しい庭。
庭の中央、入り口からだと2mほど先だろうか、煌びやかに輝くクリスタル。
あのクリスタルを売れば、どれだけの富を得られるのだろうか…?
とりあえず一晩の食料を得るために夜間を狙って見知らぬ民家にこっそりとおじゃまする事はなくなりそうだ。

目の前の宝石はいかにもとってくださいというかのように無防備だ。
嫌な予感がして前に店でくすねた多機能ゴーグルをかけてみる。
幾重にも重なった赤い糸のような線が現れた。
隣にいる術師が荷物になると反対し、ちょっぴり喧嘩になったが我を通して良かった。

適当な嘘をつき、術師からハンカチを受け取っておもむろに庭に向かって投げてみる。
赤いモノにハンカチが触れたその時、左右から白い光が……

何かが燃えて焦げるような匂いが庭に満ちていた。
大切にしていたのだろうか、さっきから俺の胸倉を荒々しくつかんで何やら罵倒を浴びせている。
まぁ、あえてそうしたのだから謝る気はさらさらない。
それよりもすでに腹の虫が鳴いているというのに食料もなければ金もない。
今すぐにでもあの宝石の輝きを照りの良い肉に換えなければならんというのにっ!!
仕方がない・・・

あと、数センチ足りない。
剣と杖をくっつけて伸ばしたまでは良かったが、赤い糸が邪魔をしてうまくいかない。
疲労と空腹で全てをぶっ壊してしまいたい衝動に駆られるが、
ハンカチを消し去ったビジョンが俺を止めてくれる。
何か他に方法はないかと、辺りを見回すといつ気がついたのやら背後で倒した…
いや、倒れていた術師がつまらなそうに胡坐をかいてこっちを見ている。
「見ているだけならなんとかしろ。このインチキ魔法使い。」
「術師だ。」間髪いれずに突っ込んできた。
俺の中では全く変わらないっていうか違いが全くわからないのだが…。
術師はゆっくりと立ち上がり俺が投げ捨てた"宝石奪い棒"を解体して杖を取ると
神妙な表情で変てこな言葉をつむぎはじめた。
すると、白い光が出ていた左右の壁が柱だけを残してぶっ壊れ、楽に宝石が取れるようになった。
なんともあっけない。
「ったく〜、んな事出来るんだったら始めからしろよ。魔法使い華奢夫。」
「術師だっ!!お前が俺のハンカチを奪い、野蛮な剣で俺の頭を
殴りやがって!!お前と違ってちゃんと脳みそ入ってんだぞ!この筋肉馬鹿ぁ!!」
今度は殴られないようにキチンと間合いを取ってやがる。くそっ!宝だけとって逃げるつもりが・・・。
「宝だけ奪って逃げようなんて考えてるからうまくいかないんだ。能無し筋肉。」
おぉー!考えてる事読まれちゃったよ。
「インチキ魔法って人の頭ん中まで見えるようになってんの?」
「魔法じゃないと言ってるだろう!?私は術師だ!!お前の考えてる事くらいガキでも分かるわぁ!この阿呆!!」
暢気に質問すると、鬼のような形相で軽快に突っ込んでくる。

宝石を残した庭の前でそうこうしているとすっと影が二人の横を通り過ぎていった。
はっとして庭を見ると一枚の小さな紙がひらひらと舞い降りた。

『君達は要らないようだから
 僕がかわりにもらってあげよう。
 また、こんな形で会えるといいね。
 それでは良い旅を。

            by.僧侶 』


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