若き支配者

ある国の宝物庫。

今から少し前、そこは詳しいものの間では、少しずつ名を知られるようになっていた。

曰く、最近とても有能な支配者により、とても良い統制が取られている。

その建物を守る警備兵は、とても真面目だと評判になった。


どんな非常時であっても、まず第一に成すべきことを成すと。




以下は、彼らが最も仕事の成果を上げた、ある日の記録だ。




No.106521

○の月 □の日 早朝―日の出の頃
担当者:××××

 【今月のスローガン】
  我ら国家宝物庫警備隊、常に任務に対し冷静かつ忠実に
  国の宝と国民の信頼を守る仕事をするべし

・本日一回目の見回り及び、全倉庫の物資の確認完了。
・不審者侵入の形跡なし。

問題点:西側廊下の照明が切れかけている。
対策  :業者に連絡済み。本日午後に点検に来る予定。
備考  :特になし。



No.106522

○の月 □の日 朝―朝食の頃
担当者:◇◇◇◇

・東側二階警備担当の□□、二階突き当たり付近に侵入者を発見。
・侵入者は、手していた本を音読しており、薄暗い建物内でも容易に発見できたとのこと。
・拘束を試みたが、応援を要請された私が本書の記入を終え駆けつけたときには、惜しくも逃走を許してしまっていた。
・犯人は持っていた本を落としていった。題名は『声に出して読みたい隠密行動の心得』。

問題点:侵入者発見場所は、この時間薄暗く、警備も手薄だった。
対策  :二階東側の警備員の増員を検討する。
備考  :犯人の落とした怪しい本の出版元に出版停止を訴えた。



No.106523

○の月 □の日 昼―正午前の頃
担当者:△△△△

・正門前に許可証のない者が一名、侵入を試みて来た。
・その人物は、黒装束、黒い覆面、黒い手袋と黒のブーツを身にまとい、素顔どころか、年齢や性別すら判別できなかった。
・しかし、天気も見晴らしも良い屋外であったため、その人物の行動はとても目立っていた。
・そして、当初から姿を隠す気は無かったのか、堂々と正門前に立ち「空き巣だ。命が惜しければおとなしく門を開けろ」と言った。
・相手は、言ってから自らその言葉の矛盾に気づいたのか、何もせずに去っていった。
・立ち去った後には、一冊の本が落ちていた。『もう逃げない―できる漢の空き巣術』。そもそも、ここは空いてはいない。

問題点:とくに被害がなかったため、問題点はなし。
対策  :こちらの対応に不備は無かった為、現状通りの警備を続ける。
備考  :犯人の落とした怪しい本の出版元に苦情を訴えようと試みるも、既に抗議が殺到しており、対応不能の状態だった。



No.106524

○の月 □の日 昼―正午過ぎる頃
担当者:●●●●

・正門前に許可証のない者が一名、相手は行商の者だと名乗った。
・こちらでは必要な備品は、既に専用の業者から取り寄せている為、こちらでの営業は無駄だと説得するも、聞き入れられなかった。
・行商の者が売りつけようとした商品は、衝車。兵士には必要だろうと推し進められた。
・こちらは確かに兵士ではあるが、守ることが仕事の我らに、門を打ち破る衝車は不要と説得を続けた。
・行商の者は、とにかく実演するので見て欲しいと言い張り、強引に商品を持ってくると実演を強行しはじめた。
・衝車は実演と称して門を打ち破りはじめた。勝手な判断で動く訳にはいかないと思ったため、即座に警備会社に連絡をとった。
・残念ながら、警備会社の者の到着は間に合わず、門は打ち破られ、その混乱のなか、行商の者の姿を見失ってしまった。

問題点:行商の者行方は不明。門内へと入られた可能性あり。
対策  :警察への手配連絡をした。夕刻頃に警官が到着予定。
備考  :警備会社の連絡から到着までの時間の長さに不安を感じる。迅速な対応を願いたい。



No.106525

○の月 □の日 昼―午後の休憩時間の頃
担当者:****

・本日朝に連絡していた照明工事会社より、整備の者が訪問。
・とても大きな鞄を抱えていた。整備道具が入っているらしい。
・正門にて身分証明と通行許可書類を確認。
・依頼した箇所の整備と共に、全館の証明点検も行うとの事だった為、マスタキーと許可証を貸し出す。

問題点:特になし。
対策  :特になし。
備考  :特になし。



No.106526

○の月 □の日 夕刻―日没の頃
担当者:■■■■

・本日午後に連絡していた警察の者が訪問。
・正門にて身分証明と通行許可書類を確認。
・午後に侵入した恐れのある行商の者の探索を依頼。
・全館を見回りたいとの事だった為、マスタキーと許可証を貸し出す。
・その後、全館の点検を終えた証明整備の者が正門へと戻ってきた。
・とても大きな鞄を抱えていた。整備道具が入っているらしい。がちゃがちゃと音を立てていた。
・正門にて貸し出していたマスタキーと許可証の返却を確認。
・日没の頃、大きな風呂敷を抱えた行商の者を引き連れ、警察の者が正門へと戻ってきた。
・事情聴取があるため、犯人の身柄と、犯人が持ち去ろうとした物品は一時警察が預かることとなるらしい。
・正門にて貸し出していたマスタキーと許可証の返却を確認。

問題点:なし。
対策  :なし。
備考  :警察が預かる物品は数日後返却の予定とのこと。





以上の記録が、彼らの中で最もすばらしい成果を上げた、仕事の結果だ。


当日の記録文章、全文で106行。


すばらしい仕事量だと、たいそう評価されたそうだ。


この記録の文章こそが、彼らの仕事そのものだった。



昔から、この宝物庫の警備員はとてもとても、決められた仕事に真面目に取り組んでいた。

以前は鉄壁の守りと褒め称えられた。

宝物庫を侵入者から守ることこそが、彼らの仕事であったからだ。



しかし、数年前から、彼らの仕事は変わった。

彼らの新しい上司は、彼らのつける業務日誌にしか目を通さず、その内容の長さだけを、彼らの働きと取った。


彼らの仕事は変わり、そして彼らはとてもとても、それに忠実であった。



彼らを統べる、若き支配者。それはこの、一冊の分厚い業務日誌となったのだった。



今日も彼らは、真面目に業務に励んでいる。

警備は警備会社に依頼し、不審者の捕獲は警官に任せ。

そして、自らの成すべきを、成すのだった。


その仕事ぶりは、盗みを生業とし、その情報に詳しいものの間では、少しずつ名を知られるようになっていた。



曰く、最近とても有能な支配者により、とても良い統制が取られている。と。






No.106545

○の月 ◆の日 午後―西の空が赤く染まる頃
担当者:◎◎◎◎

・先日の窃盗未遂の際、事情聴取のため警察が一時預かっていた物品の返却予定日が本日であったが、未だ連絡なし。
・確認のため近隣の警察支部へと連絡をするが、そのような予定も預かっている物品もないとの答え。
・先日預かった身分証を元に問い合わせをするが、該当する人物がいないとの答え。
・警察を名乗る人物が預かった物品以外にも、数点確認できない物があることが判明。
・先日の記録に、同時刻に当宝物庫にいた照明工事会社の者が、大荷物を持って去ったとの記述あり。
・照明工事会社に確認をとるが、該当する人物なしとの答え。

問題点…
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No.000000

2の月 19の日 夜
担当者:らこ

・今回もまた突発的思い付きにより奇怪な文を書きなぐる。

問題点:例によって時間の単位などを決めていなかった為、時間の表現で挫折しかける
対策  :例によって考えるのが面倒で逃げに走る。
     他の作者が書いたら即座に右に倣う構え。ビバ、他力本願。


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