(術=術師・剣=剣士・僧=僧侶)

旅の友・繋ぐ手

穏やかに流れる川と平行に、まっすぐ伸びる土の道。
川との間とその反対に、草花いっぱいの野原がありました。

川に面した小さな野原で、彼女は今日も花を愛で、川と草木と土の道の全てを愛し、ただ幸せそうに眺めていました。
その場所は昼間はいつもお日様が暖かくて、彼女はそこが大好きでした。
人も馬車もあまり見かけない静かなところでした。
しかしそこにはいつも、彼女と遠く離れた先からそっと彼女を伺うもうひとりの姿がありました。
風の音と川のせせらぎにまぎれて、道を挟んだ反対側の木の陰からもうひとりがこちらを伺う音をみつけて、
彼女はいつもちいさく微笑むのでした。


そんなある日。
いつも穏やかな野原に、それはそれは賑やかな三人の冒険者が通りかかりました。


僧「いやー流石に人通りの少ない田舎の道だけあって、道幅が狭いですよねー」

剣「まったくだ。これではみっしり引っ付いて移動しなければならない。
  不便なことこの上ないな」

術「いや…単に横一列に並ばなきゃいいだけだろ、つか暑苦しいからひっつくんじゃねえよ」

僧「おや、この先さらに幅員減少の標識が。これは困りましたねー」

術「標識ってこんな野原にそんな親切なもん立ってたか…?
  大体、なんで俺を真ん中にするんだよ。新手のいじめかこれ」


いつものように川辺の野原で花を愛でていた彼女にも、楽しそうな話し声が届いてきました。
明るい声に誘われ彼女が冒険者たちの方を見ると、その中のひとりと目が合いました。
その冒険者はとても暖かい笑みを浮かべ、ちいさく彼女に手を振りました。
彼女も微笑み、ちいさく冒険者に手を振りかえしました。


術「ってアンタ川に向かってなにやってんだ」

僧「何って、挨拶ですよー」

術「挨拶って………………川に?」

僧「おや、術師殿は目がよくないのですかね」


彼女はそのまましばらくその珍しい冒険者たちを見ていました。
賑やかな冒険者たちが何かおしゃべりをしているのを見ていると、彼女はとても明るい気持ちなれました。
ふと、さきほど彼女に手を振っていた冒険者のひとりが、今度は彼女に手招きをしてきました。
彼女はすこし戸惑いましたが、楽しそうな声と陽だまりのような暖かい雰囲気に惹かれて、もうすこし近づいてみることにしました。


僧「こうやって唯々道を歩いていると、
  なんとなく五人くらいで横にずらっと並んでずんずん進んで、訳もなく他の通行人を威圧してみたいとか思ったりしません?」

術「それはどうでもいいんだが、さっきから本当になにやってんだアンタ」

僧「いえちょっと……はいどうぞこちらへー。
  そんな訳で、ふと大所帯に憧れたもので、そちらにいらっしゃった方をついつい誘ってしまいました」

術「だからどこに人がいたんだよ。
  それに、誘ったっていつ来るっていうんだ」

僧「いま。貴方のとなりに。ですが?」

術「………………は?」

僧「本当狭くて申し訳ありませんね〜」

術「いや誰が俺の隣にいるってんだ!?
  つかさっきまであれだけべたべたくっついてたくせに、なんで妙に人ひとり分の幅あけてんだよ!?
  あとこっち向いて微妙に俺じゃない方向に気ぃ使ってんじゃねえよ!!」

僧「はー…だめですよー術師殿。大声出すから怯えちゃってるじゃないですか、隣の方」

術「だ、だからなんの話なんだよっ」


冒険者は彼女をそっと列の中に招き入れると、歩調を彼女に合わせとてもゆっくりと歩みながら、
何度も微笑みかけ、いろいろ声をかけてくれた。
冒険者たちのおしゃべりは、今までここを通ったどの人たちよりも可笑しかった。
そして今までの誰よりも暖かかった。


剣「ふむ……しかしずらっと並ぶという表現には、四人ではすこし物足りないような気がするが」

僧「そこなのですよねー。最低五人は譲れませんね」

術「無視かよ。つかアンタまでなにさらっと四人とか言ってんだ」

剣「よし、丁度良いところに向こうの木の陰にも誰かいるようだ。それも連れて来よう」

僧「あ、本当ですねー」

術「…………見えないんだが」

剣「木陰だからな」

僧「木陰ですからねー」

術「その嫌な反応…絶対ぇそういう問題じゃねえんだろ…」


冒険者のひとりが道から離れ、道を挟んで川と反対側の木の陰へと歩んでいきました。
そしていつも木陰に隠れそっと見つめるだけだったもうひとりが、引っ張り出される。
ひなたのまぶしさに目を細めながら、そっと顔を上げた彼と彼女ははじめて目を合わせました。

そしてそのまま引きずられるようにつれて来られた彼も、当然のように列に押し込まれました。


剣「見事ナンパに成功したようだ。さあずいっとこちらへ」

僧「すばらしい腕前ですね。残念ながら相手は男性のようですが」

術「この際性別はどうでもいい。今俺の隣には『何』と『何』がいるんだ」

剣「ああ。こちらは先ほど向こうの川辺で誘った女性だ。
  近くにいたようだが知り合いなのか?」

術「だからこっち向いて俺の左隣を指して俺の右隣に説明するな」

僧「貴方先ほども彼女だけ見ていたようでしたね。
  もしかして想い人でしょうか」

剣「そのようだな」

僧「いい機会じゃないですか。
  真ん中の物体はトーテムポールか何かだと思って気にせずに、手でもつないで歩いてみてはいかがですー?」

剣「トーテムポールを挟み込んで手をつなぐというのも、また斬新だがな」

術「をいまて物体とかトーテムポールとかって俺のことかよ」


しばらく彼と彼女はただ呆然と、戸惑いながら相手の顔を見詰め合う。
そして、とても微妙な表情をしている真ん中の冒険者の背に、おそるおそる彼の手が差し出されました。
彼女は一度彼を見つめ、すこし戸惑ってから、その手をとりました。
透けて見えるふたりの手は、触れ合うとなぜか暖かく感じました。


術「なっなんか今背中に寒気が……」

僧「おや術師殿も割と感じるほうなのですかね」

剣「まったく見えてはいないようだがな」

術「いったい今俺の周りで何が起こってるんだ…!?」

僧「いい感じですよー」

剣「主役もヒロインも見えていないとは、勿体無いな」


午後の日差しをいっぱいに浴びながら、どこまでも賑やかに、賑やかに。
五人の冒険者たちは、道幅いっぱいに並びしゃべりながら騒ぎながら、楽しい時間が流れました。

やがて、繋いだ手はそのままに、彼と彼女は歩みを止め。
振り返った冒険者たちにふたりはとてもとても幸せそうに微笑み、心からの感謝を述べて、日差しと風の中に消えていきました。



  *  *  *



僧「さて、密かな野望もつつがなく達成したので、またさくさく移動しましょうかー」

剣「五人並べて歩いたからな」

僧「見る人によっては三人ですけれどねー」

術「うう……なんか分からんが妙に疲れた……
  ってアンタらまたひっついてあるくのかよ!?」

僧「急にまた三人になってしまって寂しいんですよ。ねー」

剣「ねー」

術「今日のアンタら気持ち悪ぃんだよ…つーかやっぱりこれイジメなんだろ…」


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