ただ欲しいと思っただけ

僧「なんです?こんな所に呼び出して。」

術「呼び出してすまなかったな、ほんの礼だよ。
  受け取ってくれ。」

僧「御札ですか。それは私のではないので受け取りかねますね。」

術「何っ!?だが僧は持っていて悪くないと思うんだが。
  偉い僧が書いたらしいんだぞ!」

僧「自分で書いた物しか使わないのですよ、私は。」

術「・・・・・。」

僧「なんです?行動派のあなたが珍しく考え込んだりして。」

術「失敬だ!あ、いや、なんでもないんだ。
  それよりもどうしてそんな遠くにいるんだ?
  入り口の前に突っ立っていては話し辛いだろう。」

僧「あなたがその札を遠くへ投げてくれたなら喜んで。」

術「…偉い僧が書いた札のどこに警戒する必要があるんだ?」

僧「しょうがないでしょう?この場所は問題ないんですけどねぇ。  その札を見るだけで気分がすぐれないというか…。」

術「ちっ!此処は入れるのか…。」

剣「良かったな、入れるようになって。」

僧「どうも、おかげさまで。」

術「隣の町で待っているんじゃなかったのか?
  気配まで消しやがってどこから湧いてでた?」

剣「元からいたな。」

術「そうか…、わざわざ隣の町に行くフリをして此処にいたのか。  つくづく腹が立つな。
  そして得意気に胸を張るな。嬉しそうな顔をするな。」

剣「賭けに勝ったんだ。当然だろう。」

術「しょうがない。ほら、約束の焼肉食べ放題引換券だ。」

剣「賭けなんかに乗るから取られるんだ。」

術「お前にな!」

僧「剣士は何を賭けたんです?」

剣「同じ焼肉屋のアイス2時間食べ放題引換券だ。」

術「なかなか酷だと笑ったら賭けをふっかけて来た。
  こんなにイメージピッタリで近所の住民が祈りに来るような
  教会なんて入れるわけないと思ったんだがな。」

僧「ほう…。」

剣「入れるに決まってるだろう。
  近所の住民は勘違いしてるようだがな。
  あそこに神など宿らん。」

術「あぁ?なんだって?」

僧「偶然を装って出会った術師を騙すためだけに以前はただの
  廃屋に過ぎなかった此処を一週間かけて神聖な教会
  築100年風に作り直したというのは本当だったんですね。」

術「ほぉ〜…。」

剣「言っただろう。そこの術師よ。」

術「ああ、聞いてないな。」

剣「勝つために手段を選ぶ必要なんてないんだ。」

僧「偉そうに言ってますけど?」

術「…さっきから思い返しているんだが言われた記憶なんて
  全く無いんだがな。」

剣「そうか、覚えてないんだな。お前がまだ幼かった頃に・・・・・」

術「お前のような奴に幼い頃から出会ってたら
  とっくにトラウマになってたはずだがな。」

剣「お前は昔から逆境に耐えられる強い子で・・・・・」

僧「これはこれは。引き換え券は2枚ともちょうど3名まで
  ご利用になれるそうですよ。良かったですね、皆で
  ご飯が食べれて。」

術「そうだったのか!?」

僧「あ、読み間違えました。ペア券です。
  早く来ないと食べれませんよー。」

術「その前になんで持ってる…??」

僧「そんな、ただ拾っただけですよ。」

術「爽やかな笑顔で嘘をつくな。
  腹が立つ。腹がなる。腹が減る。」

剣「どうして盗った?」

僧「・・・・・へぇ、聞きたいですか?」



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 私は聞きたかないですね。


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