手紙


言葉には魂が宿ります。
善意を持って発する言葉は相手を癒やし、悪意を持って発する言葉は相手を傷つけます。
しかし、投げやりに放たれた言葉は、何も成しません。
近年、こういった何も成さない言葉が年々増加し、我々の国で大きな問題となっています。
よって、根本的な原因の改善の為、近年最も投げやりな言葉を発していると判断された貴方を、指導・矯正の為、当方で拘束致します。
【言葉の国 職業安定委員会】



「と言う内容の手紙が俺宛に届いた訳だが…近頃のイタズラは発想が斬新だと感心するところだろうか」

術師は、そう憂鬱極まった表情で呻いた。

「しかし、質の悪い冗談にしろ、なんで名指しで俺宛なんだ。アンタらの方が余程無意味な言葉量産している気がするがな。聞かされる側として、切実に」

向かいに座る剣士は、それは心外だ。と、しかし無表情のまま返した。

「私は常に、お前との会話を楽しんでいる」

向かいに座る僧侶は、それは心外です。と、しかし笑顔で返した。

「私が何の意図も無く、無意味な言葉を発しているとお思いですか?」



数日後、「言葉の国の職安社員」を名乗る人々に襲われるなどとは、この時術師は考えもしなかった。




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